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舞い上がれ2

熱気球1
気球はバーナーの炎を吸い込んでぐんぐん上がっていく。
炎は上に3mも伸びているだろうか、
大きな火の塊が球皮の中に消えていく。
液体プロパンガスを炎に変えて推進力を出している。
「ズゴーン!ズゴーン!」という豪快な音。
2,000㎥の空気が80℃の熱風で舞い上がる音だ。
球皮に内側から音がぶつかって跳ね返ってくる。
そう、風船を口で膨らませた時のキューンという音の馬鹿でかいやつ。
猛獣の叫び声にも聞こえる。
地上は緑の大地、牧場が離れて行く。
秒速1mくらいだろうか、2mくらいか、静かに高くなって行く。
牛が驚いてこっちを見ている。
全員がこっちを見ている。
おもしろいなー・・・
牛が小さくなっていく。
空は曇っている。
どんより重苦しい。
午前7時の曇り空、玄関を出た瞬間に今日1日が憂鬱になるような、
灰色の空が低空に迫っている。
だから遠くまで見渡せない。
僕はこのままどこに連れていかれるのだろうか。
不安がよぎる。
それは高所に居る恐怖感ではない。
初飛行で、空を飛んで、一面の重苦しい雲の壁に行手を妨げられて、
跳ね返されるのか、呑み込まれるのか。
湿っぽい空気が初めての体験を後ろ向きにする。
高度計が150mを指す頃、
霧の中に突っ込んだ。

気球雲海に突入

もう下の牧場は見えない。
目の前も、後ろも上も灰色に包まれて、何も見えない。
今まで生きてきた中で、何も見えない霧なんてなかった。
ここは50cm先が見えない。
これが雲の中の感覚か。
360度何もない世界にいる。
とても不思議。
僕の右手はゴンドラのワイヤーをつかんでいる。
左手は雲を触っている。
脳は高さを意識しているが、体はゴンドラから飛び出しても落ちるような気がしない。
まったく音も無い世界。
ただ時々伊野さんがコックを開いた時に聞こえるバーナーの唸り声が聞こえるだけだ。
そしてまた音のない世界が広がる。
雲の中は薄暗い灰色の世界があるだけで、その他何もない。
でも、がたがた揺れる。
風が吹いている。
風は上から下に吹いている。
上昇しているからだ。
バーナーを焚くと上昇する。
暫くすると風が無くなり安定する。
下から風が来ると、気球は下がっている。
気球の動きは肌で感じなければならない。
前後がまったく見えないんだから、どうしようもない。
予想のつかない、まさに霧の中では不安が増してくる。
このままどうなるのか、気持ちが悪い。
長い時間置き去りにされている感覚。

雲海の中を彷徨う

実際には5~6分だったかも知れない。
上空が白く輝いてきた。
希望の光が差し込んでいる。
益々光がまぶしく、雲がきらめきだした。
と、思った瞬間、
気球は真っ青な空の下にいた。

気球雲海のうえを飛ぶ

ものすごいきれいな藍色。
空が丸いような気がする。
地球の姿か?
目の前に広がるのは。
そしてゴンドラの周辺は真っ白な雲の絨毯。
ふわふわして綿菓子のようだ。
どこまでも広がっている。
高度計は650mになっている。
バーナーを焚けば、雲から離れて眼下に雲の海が見える。
これが僕が夢見た景色だ。
想像もできない、超現実的世界からのプレゼント。
大学1年から始めた気球作り、
ぷがじゃに投稿してメンバーを集めて、
アルバイトで買った球皮をミシンで縫って、縫って作った気球。
この世界を見たかったんや。
4年間かけて作った。
高2の夏、熱気球イカロス5号を読んで、
僕も気球を作って飛びたいと思って6年。
1980年7月。
僕は22歳。
やり続けて良かった。
最高やーっ!


真悠ちゃん、
もし君が気球に乗ってみたかったら、乗せてあげられるよ。
父ちゃんの友達はまだ気球を飛ばしてるから、
頼んでみる。
父ちゃんは琵琶湖横断熱気球レースにも出たよ。
1,000mの高さを気球で飛ぶのは爽快(そうかい)やで。
1回やってみる?
\(^o^)/

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プロフィール

mahalo1116

Author:mahalo1116
橋口輝雄です。
大きくなっていく真悠にメッセージを送っています。
父がこんなにも真悠を愛していたと、伝わればいいね。
真悠は愛されていたんですよ。
だから大丈夫。
生きていれば苦労の連続だけど、大丈夫。
安心してね。
これは父から娘への遺言です。
だから他の人は読まないでください。
読んでもおもしろくないし。
ごめんなさい。
真悠、いつかメール頂戴ね。
待ってるで~。
メールの送り先:
maha.mahalo1116@gmail.com

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