4年生になった真悠にプレゼントです。「今は昔、そして未来へ」 第18話
- 2020/04/10
- 14:58

真悠にだけ、今昔物語の話をしようか。
3年前に俺が作った小説、みたいなものかな。
出来、不出来は別にして、いっぺん読んでみて。
真悠はこの4月で4年生やね。
おめでとう。
新型コロナウイルスの影響で、学校には行けないけど、
自分で工夫して、遊んだり、勉強したりして、時間をうまく使ってください。
4年生だから、ちょっと漢字は難しいけど、
読めるよね。(^∇^)ノ
今昔物語から
ここはどこだろう。
真っ暗で何も見えない。目は開けているのに、何も見えない。
静かだ、何も聞こえない。身体は浮いているように思う。
暗闇は気持ち悪い。子どもの頃の、灯りのない真っ暗な田舎道を思い出す。
足下に蛇がいて、踏んでしまったらどうしようと思い怖かった。
でも今は恐怖感なんて全然ない。すごく気持ちいい。安心感というか不安がなにもない感じ。
暑くもない、寒くもない。心地よくて、自然な感じ。いつまでもここでこうしていたい。
僕は生きているんだろう。なんとなくそう思う。
でも、手で身体を触ろうと思うけど、手も足もお腹も顔さえも見つからない。
空(くう)とは、このことだろうか。不思議な感覚が僕を覆(おお)っている。
なんだろう。遙(はる)か遠くの方に白い点が見えた。
その点がどんどん大きくなって迫ってきたかと思うと、一瞬にして僕は飲み込まれてしまった。
僕は突然真っ白な世界に投げ込まれた。
これはなんだ。そうだ、光りだ。
僕は瞬(まばた)きする間もなく眩い(まばゆい)なんてものじゃない、強烈な光り、今まで一度も体験したことのない莫大な光りの洪水に驚いた。
「あっ!」
声を詰まらせた次の瞬間、多分刹那(せつな)と言う短い時間に僕はとんでもない光景を見た。
宇宙だ。本で見た、テレビやプラネタリウムで見た宇宙だ。
目の前に三百六十度宇宙が広がっている。
「あれは銀河や!」
渦巻きが見える。しかも本当に渦を巻いて動いている。
銀河団なんだろう、無数の銀河が見える。向こうから近づいてきたかと思うと、あっと言う間に飛び去っていく。
七色に輝いているガス星雲も見える。
きれいだ。星も誕生や最期があって、生きているんだね。
僕は夢を見ているんだろうか、
ペルセウス座流星群やしし座流星群なんて二時間も眺めていたけど何も見えんかった。
遠い宇宙と僕たちの住む地球。
宇宙人は居るんやろうか、居たら宇宙船よ今現れてくれと、何度も宇宙にお願いしたけど、一回も現れなかった。
僕はものすごいスピードで宇宙を飛んでいる。
光りよりも早い。なんだろう、光りよりもっと早い粒子になっているに違いない。
物理で習った光りの速度で何光年、何千光年もかかる距離を瞬(またた)く間に飛び越している。
僕は自分の目で見ている。証明できる。誰かに聞かれたら、この真実をすべて話して上げられるよ。
多分人類がまだ発見していない何かだ。きっと。
「えっ」目の前に太陽が現れた。
太陽系だ。
「あっ、あれは地球や」
なんてきれいんやろ。ほんとに青いわ。
ガガーリンの言ったとおり、青い地球や。
今までの宇宙の旅の中で一度も見なかった青い星。海が光ってる。山の上に雪が見える。緑の大地が見える。
「あれっ!」
日本が見える。どんどん、吸い込まれていく。
「えっ、うっそー、ほんまに~!」
「ぶつかる~」
「ワッ~アッ!」
「光(ひかる)、ねえ光、なに寝言言ってるの?」
母ちゃんの顔が目の前にあった。
「母ちゃん、いきなり顔出したらビックリするやろ~」
「ビックリしたのは、こっちよ。わーわー寝言いって。早く起きて学校行きなさい。遅刻するよ。」
「嗚呼、わかった」
僕は急いで朝食を済まして、学校へ向かった。
教室に入ると高山さんから声を掛けられた。
「大沢君、私ね、今日変な夢を見たわ」
「えっ、どんな夢?」
「真っ暗なところから、急に真っ白になって、宇宙を見たの」
「えっ、僕と同じ夢!」
「ほんとに?」
「僕はその後、地球が見えて、日本列島に吸い込まれて行った」
「公(きみ)も同じ、驚いて目が覚めたの~」
不思議なことが起こった。僕たちは同じ夢を見ていた。
多分僕たちはブラックホールの中にいて、突然ビッグバンに巻き込まれた。
宇宙をあっという間に飛び越えて、地球に帰ってきたんだ。
「ねぇ高山さん、今昔物語集にある竹取の物語を読んでみないか」
僕は宇宙と宇宙人のことが書かれた
『竹取(たけとり)の翁(おきな)、女児(おんなご)を見付(みつ)けて養(やしな)える語(こと)』
を読んでみようと、高山さんに言った。
高山公(きみ)と僕、大沢光(ひかる)は同じ高校二年の同級生。
部活も同じ、古典研究会で今昔物語の不思議に取りつかれている。
【竹取(たけとりの)翁(おきな)見付女児(をむなごをみつけて)養(やしなふ)語(こと)】
第三十一巻 第三十三話
今は昔。○○天皇の御代(みよ)に、一人の翁(おきな)(おじいさん)がいた。
竹を取り、籠(かご)を造って、必要な人に与え、その代金を得て生計を立てていた。
ある日、翁が籠を造るためにいつもの篁(たかむら)(竹林)で竹を切っていると、側(そば)の竹の中に一本、光る竹を見付けた。
その竹の節の間になんと、三寸(九センチ)ほどの人を見付けた。
「な、なんじゃこれは」
翁は光る小人(こびと)を見て不思議に思った。
「長年竹を取ってきたが、こんなことは初めてじゃ」
翁は女児を見付けて喜び、片手にその小さな児をやさしく掴み取り、もう片方の肩には竹を担って家に飛んで帰った。
妻嫗(おうな)(おばあさん)に
「竹林の中で、こんなにかわいい女の子を見付けたぞ!」
と言うと、
「まあかわいい。光り輝いているわ。ありがたや、ありがたや、神々(こうごう)しや」
嫗も女児を見てたいそう喜んだ。
初めは編んだ籠に入れて養っていたが、三ヶ月ほどで、普通の大人と変わらなくなった。
その子は成長するに従って見る見る端正で美しくなり、何者も比べる者がなく、この世の者と思えないほどに美しくなった。
翁、嫗はますますこの子を慈しみ、可愛がり、心から愛した。
いつしかこの子の美貌は世間に轟(とどろ)くように広まった。
子育ての間も翁はいつものように竹林に竹を取りに行った。
竹を切ると、まあ不思議、竹の中から黄金が出て来た。しかも何度も、何度も。翁はこれを取って家に帰った。
そして程なく翁は大金持ちになった。宮殿、楼閣を建て、そこに住んだ。
様々な財宝は倉に充ち満ち、家来衆も多数を数えた。
この子を授かって以来、寝ても覚めてもこの子のことばかり、ますます愛おしく、この上なく大事に世話をした。
そうしている内に、噂を聞きつけた様々な上達部(かんだちめ)、殿上人(てんじょうびと)は手紙を書いたり、
使いをやったりして求婚したが、娘は相手にしなかった。
さらにしつこく言い寄る三人に対して,三つの宝物を持ってきた人と会うと返事をした。
初めの男には
「空に鳴る雷を捕まえて、持ってきてください。そうすれば会います」
次の男には、
「浄土に三千年に一度咲くという優曇華(うどんげ)の花を持ってきて下さい。そうすれば会います」
三番目の男には、
「打たないのに鳴るという鼓(つづみ)があるそうです。それを探してきて、私にその音を聞かせて下さい。そうすれば会います」
などと言って、会わなかった。
この世の人とも思えぬ美しい姫を何としても手に入れたい恋する男たちは、
自分こそはこの願いを叶(かな)えられる男だと、肝(きも)に銘じた。
堪え難い(たえがたい)ほどの難題(なんだい)を解決するために、
ある者は物知りといわれる人を尋(たず)ね歩き、
ある者は家を出て海辺に行き、ある者は世を捨てて山の中に入った。
このように苦労して答えを探したが、ある者は命を亡くし、あるいは二度と帰ってこない者もあった。
そうこうしている間に、この話が帝(みかど)(天皇)の耳にすることとなった。
「話によるとその姫、この世に並ぶ者がないほど、高貴で麗(うるわ)しいと聞く、
我が行って見て、本当にそんなに美しい姿であれば、速(すみ)やかに后(きさき)にしたい」と思い、
忽(たちま)ちたくさんの大臣(だいじん)官吏(かんり)を引き連れて姫の居る翁の家に行幸(ぎょうこう)した。
天皇は到着するや、目を見張った。
「まるで王の宮(みや)を見るようだ」
その堂々とした壮麗(そうれい)な宮殿は、天皇を感嘆させた。
天皇は、姫を呼ぶように、御簾(みす)の内から翁に申しつけた。
直ぐに姫は現れた。天皇は、姫に顔を隠している扇を取るように言った。
「これは!」
なんて美しい。正に今まで見たこともない美しい姫だ。
「うむ、例えようのない美しさだ。この肌の白さは、光り輝く真珠のようだ。
整った目鼻立ち、赤くぷっくりした唇は、湧き出る泉のように豊かで清々しい。
長く伸びた艶(つや)やかな黒い髪はまるで天の川から舞い降りた天女が、誘(いざな)うように羽衣を掛けているようだ。
「この姫は、私の后に成るべくして、男たちに近づかなかったのだ」
と満面に喜ばれ、
「すぐに用意して王宮に連れて帰り、后にしようぞ!」
と仰った。
姫は、
「私が皇后になれるとしたら、これほど嬉しいことはございません。でも実は、私は人間ではありません」
「ではそなたは何者か?鬼か?神か?」
天皇が問い返すと、姫は、
「私は鬼ではありません。神でもありません。ただし、今すぐ空から迎えの人が来て、私は空へ旅立ちます。
帝は急ぎお引き取り下さいませ」
天皇はそれを聞かれて、
「この姫はなにをバカなことを言っておるのだ。今すぐ空から人が下りてきて、空に連れて行かれることなど有り得ん。
それは我が言うことを断る口実なのだ」
と思っていらっしゃると、僅かばかりの間に、空から多くの人が輿を持ってやってきて、この姫を乗せて空に昇っていった。
その迎えに下りてきた人々の姿は、この世の者とは思えない姿をしていた。
その時に天皇は、
「実(まこと)に、この姫は只人(ただびと)ではない、一体何者だろうか?」
と思われ、宮にお帰りになられた。
その後、天皇はことある毎に空に昇ってしまった姫のことを思い出した。
実にこの世の人とは思えないほどの美しさ、姿形の愛おしかったこと。
どうしようもないと苦しみ、どれだけ想っても無駄なことかと、天を仰いで涙した。
その姫、ついに誰であるのか判らなかった。また、なぜ翁の子になったのかも判らない。
すべて理解できないことであったと、世の中の人は思った。
このように考えられない、有り得ないことであるからこそ、このように語り伝えられてきた。
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翁(おきな)はおじいさんのこと、嫗(おうな)はおばあさんのこと。篁(たかむら)は竹林、竹藪のこと。
上達部(かんだちめ)は大臣、大納言、中納言、参議および三位以上の上級の役人。
つまり、国政の中枢を占める高官のこと。
殿(てん)上人(じょうびと)は御所の昇殿を許された四位、五位の人と六位の蔵人(くろうど)(天皇の側近として日常生活の奉仕を行っていた)。
消息(しょうそく)とは手紙を書くことや取り次ぎを頼むこと。
行幸(ぎょうこう)とは、天皇が出かけること。
宮(みや)とは、天皇の住む宮殿。内裏(だいり)のこと。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
迎えに下りてきた人々の姿は、この世の者とは思えない姿をしていた。
とは、この物語を書いた人は、どんな宇宙人を想像したのだろうか。
宇宙人の存在を具体的に形にしたことさえすごいと思う。
「ねぇ、大沢君、かぐや姫が欲しかった三つの宝物、大沢君、その本当の意味知ってるんでしょう」
高山さんの目は本気だった。
「えっ、うん」
僕は知っている。じいちゃんに子供の頃教えてもらったのかも知れない。夢で見たのかも知れない。
なぜか僕はこの物語を読んで、知ってる。と思った。
そして高山さんも自分が誰だかわかっている。
「大沢君、わたしを月に連れて帰ってくれるよねぇ」
「うん。いいよ」
「本当に、約束してね。」
「うん。大丈夫」
僕はこの今昔物語集の『竹取(たけとりの)翁(おきな)見付(をむなごを)女児(みつけて)養(やしなふ)語(こと)』を読んだあと、
『竹取物語』を読んだ。
今昔物語にはない名前、「かぐや姫」と名付けられている。
今昔物語が初めにあって、竹取物語があとから作られたというのが、僕の感想だ。
かぐや姫が求婚者に求めた難問は、今昔物語の三つが真理と思える。
竹取物語の五つの難問は、なんか茶化してる。作者の演出じゃないかな。
ただ、宇宙の王が
「この未熟者め!」
と、翁を一喝する場面がすごい。
僕はここが竹取物語の真骨頂と思う。
翁が前世に善根功徳を積んだことで、王は「真・善・美」の象徴としてかぐや姫を与えた。
翁は有り余る財と地位、名誉、長寿を手にして有頂天であった。
二千人の兵隊を要してでも守ろうとした姫と富への執着。
人間として理想を追求するチャンスを、お前は欲に走ったと、王は怒っているのではないかな。
翁と嫗はすべてを捨てて、かぐや姫と一緒に空に連れて行ってほしい、
との想いが最期の最期に出てくる。遅かりし・・・。
この物語の空からのお迎えは、当時の信仰の中心であった阿弥陀の来迎と言われている。
臨終と同時に阿弥陀様が菩薩や天人を連れて舞い降り、念仏行者を極楽浄土に迎えに来るという話。
国宝の阿弥陀如来二十五菩薩来迎図は有名やね。
菩薩は人間の形をしていて、楽器を演奏しながら降りてくるそうだ。
ところが今昔物語では、
「此の世の人に不似(に)ざりけり」
となっているから、よっぽど変わった、想像も出来ないような宇宙人かも知れない。
実際にあった話か、それともSFか、それにしてもすごい発想だ。
今昔物語集を編集したのは僧侶だろうと言われている。
僕は仏教の奥深い意味を伝承している人に違いないと思う。
全三十一巻、千五十九話の中でこの竹取の翁の話は千五十一番目。
なぜ、こんな後ろに置いたのか。それは、この話が今昔物語集の結論、目的ではないかと思うから。
一人合点だけど。
それにしても今昔物語集のボリュームはすごいね。
これだけの内容だから、何人もの人が命がけで作ったんだろうね。
未来の僕たちへのメッセージ!
ありがたいね。
一~五巻を天竺(てんじく)(インド)、六~十巻を震(しん)旦(たん)(中国)、
十一~三十一巻を本朝(ほんちょう)(日本)と三部に分け、
各部をそれぞれ仏法、世俗の二篇に分けて、千話を超える物語を展開し、最期に宇宙に帰る話を持ってきた。
その目的は、当時から千年、二千年の時を超えた、
僕たち子孫への六道(ろくどう)輪廻(りんね)の世界から浄土へ帰るためのメッセージではないかと、僕は思う。
室町時代の僧侶一休禅師は、
『分け登る麓の道は多けれど 同じ高嶺の月を見るかな』
と、歌を詠んでいる。
どの道を通っても、最期にここにたどり着きなさいと、時代を超えて同じことを言っているように思う。
僕は高山さんの背中に右手を当て、
左手で右肩を抱き寄せ、そして両腕の中に高山さんを包んだ。
かけがえのない柔らかさ。
甘い香りがした。僕の頬に触れた髪の香りはリンスではない。
甘いお香のかおり。栴檀香の香り。懐かしい香りだ。
「長かったね、公」
「そうよ、千年待ったのよ、光」
僕は5番目の男。
高山公は生まれ変わったかぐや姫。
公のあたたかい涙が、僕の頬を伝う。
「そうだね。僕たち、一緒に帰ろう」
駆け抜けていく夏の終わり。
秋はいつの間にかさらさらやって来て、
一雨ごとに深まりを見せる。
暗黒の、叢雲(むらくも)の渕(ふち)を白く彩り、
金色に輝く月が登っていく。
風は北山から甘い憂いを運んでくる。
FMラジオからスピッツの曲が流れてきた。
新しい季節は なぜかせつない日々で
河原の道を自転車で 走る君を追いかけた
思い出のレコードと 大げさなエピソードを
疲れた肩にぶらさげて しかめつらまぶしそうに
同じセリフ同じ時 思わず口にするような
ありふれたこの魔法で つくり上げたよ
誰も触われない二人だけの国 君の手を離さぬように
大きな力で空に浮かべたら ルララ宇宙の風に乗る
片隅に捨てられて 呼吸をやめない猫も
どこか似ている抱き上げて 無理やりに頰よせるよ
いつもの交差点で 見上げた丸い窓は
うす汚れてるぎりぎりの 三日月も僕を見てた
待ちぶせた夢のほとり 驚いた君の瞳
そして僕ら今ここで 生まれ変わるよ
誰も触われない二人だけの国 終わらない歌ばらまいて
大きな力で空に浮かべたら ルララ宇宙の風に乗る
大きな力で空に浮かべたら ルララ宇宙の風に乗る
ルララ宇宙の風に乗る
〔ロビンソン 歌:スピッツ 作詞・作曲:草野正宗〕
http://j-lyric.net/artist/a000603/l006df0.html